全国学力テストから教育政策の問題点を考える

 

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そもそも「テスト」と「調査」の違いは何でしょうか?

 

 

                

 

         『全国学力テストはなぜ失敗したのか』(岩波書店)

 

そもそも全国学力テストとは何か?

まず、基本的なポイントは以下の三点です。

 

正式名称は「全国学力・学習状況調査」で、2007年度から開始された

現行の全国学力テストには毎年数十億円という予算がかかっている

小学6年中学3年に実施

 

さらに、よく聞くPISA調査と比較してみると以下のような違いが分かります。

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国学力テストとPISA調査の違い

国学力テストの何が問題なのか?

では、全国学力テストはうまくいっているのでしょうか?

 

答えはNoです。このテストには毎年巨額の予算がかけられているにもかかわらず、関係者が当初期待したような目的が果たせていないからです。

 

それはなぜでしょうか?

 

そもそも、学力テストには、「指導のためのテスト」と「政策のためのテスト」の二種類ありますが、現状の全国学力テストはいずれのテストの役割も中途半端なのです。

 

前者の「指導のためのテスト」(個々の生徒の習熟度を測るためのテスト)を行いたいならば、国が実施するのではなく、各自治体の教育委員会が責任を持って行えばよいだけの話です。

 

また、国全体の教育政策を実施するためには、生徒を抽出して客観的な調査データ長期的視点に立って蓄積する必要があります。

 

PISA調査と比較すると全国学力テストは、子どもの社会的属性を確認する設問はありません。

 

「プライバシー」による反対の声もありますが、現状の把握なしに国レベルの教育政策を行っても、今までのように失敗するだけです。

 

改革した気分」に陥るのではなく、「冷静かつ客観的にデータを長期的に集める」ことが教育政策・改革全体に言えます。

したがって、全国学力「テスト」を全国学力「調査」に変わる必要があるのです

 

つまり、この全国学力テストに関する諸問題は、「教育改革」自体の問題にもつながるのです。

 

話が変わりますが、近年「教育格差」、「子どもの貧困」という言葉が広く認識されるようになっています。

 

しかし、その問題の解決には「実態の把握」が大前提として存在していることを忘れてはいけません。

 

未来の世代のためにも「客観的・包括的データの蓄積」と「実態把握」を徹底する必要があると痛感しました。

 

本書は「全国学力テスト」を中心に「望ましい教育改革の在り方」についても広く議論しています。

 

本書を読めば、現状の教育改革の欠陥が見えてくるでしょう。

―書籍情報—

【書籍名】全国学力テストはなぜ失敗したのか――学力調査を科学する

【著者名】川口俊明

【出版社】岩波書店

【出版日】2020年9月4日

【キーワード】全国学力テスト 学力 調査 教育政策 教育改革

【頁数】184頁

【目次】

はじめに

第一章 全国学力テストをめぐる混乱

第二章 全国学力テストの歴史と概要

第三章 PISAから学ぶ学力調査の科学

第四章 全国学力テストのはなぜ失敗したのか

第五章 全国学力調査を再建するために

ブックガイド(社会調査・教育問題・日本社会に関する書籍が紹介されています)