【我々の手は血で赤く染まっている】教育格差―階層・地域・学歴
本書を読んだのは確か去年の六月頃だったと記憶しています。
全体で360頁と新書にしてはかなりのボリュームです。
しかし、読み始めると、今まで学校教育に抱いた違和感が見事に言語化されており、言葉では形容しがたい気持ちになりました(今でも上手く言葉で言い表せません)。
感想を書きだしたら、際限なく書いてしまい、自分の主観も入り込んでしまうため、書評という形で書きます。
【凡庸な教育格差社会日本】
教育社会学者が、日本の社会に影を落とす「教育格差」の存在を膨大な客観的データ に基づき紹介します。
本書は徹底的に「エビデンス主義」であり、主観的に語られやすい日本の学校教育の現状を客観的かつ分析的に記述しています。
題名の副題として挙げられている「出身階層・地域・学歴」の三つの要因(その他の要因も複合的に合わさることも)により教育達成、そして、その後の職業達成にも格差が生じていることを各教育段階に分けて淡々を論じています(格差再生産)。
そして、我々は個々に固有な学校体験を基に教育を語ろうとします。そのため、客観性に欠け、独りよがりな主張になりやすいです。
たしかに、自分の経験から「義務教育が達成された日本に教育格差などはない」と主張したくなりますが、今も昔も「確かに」教育格差が存在し、そして、就学前からその格差が生じています。
我々は教育格差に自覚的になる必要があります。
【我々はどんな社会を生きたいか】
教育と社会は密接に関わり合っています。では、どのように教育、そして社会を変えていくのでしょうか。
「教育費の無償化」「奨学金制度の充実」など経済的障壁を取り除く政策が考えられるでしょう。
しかし、経済的障壁を取り除くことで格差・貧困が根本的に解決するならば、とっくに解決しているはずです。
では、具体的にどうすれば解決するのか。現時点で「これだ!」という方法はないと個人的に思っています。
地道に全国規模でデータの蓄積・分析・評価を行い、現場に徐々に反映していく。
だからこそ、格差の現状を把握することなしに独りよがりな議論・教育改革は避けなければなりません。
この問題は決してすぐに解決できる問題ではありません。長期的な視点を持つことが重要であり、そのためには現状把握という段階をおろそかにしてはなりません。
私は、教育をこれから学ぼうとしていたにも関わらず、日本教育の実情を知らなかったことに衝撃を受けました。
そして、どのような社会問題の解決を考察する前には、一度立ち止まって自分の善悪の価値観から離れて、客観的に現状を理解しようとする姿勢が大事であることを痛感しました。
僕の手は血で赤く染まっているでしょう。事実を知っているのに沈黙しているのは格差に加担していることと同じです。
もしかしたら社会は変えられないのかもしれない。やるだけ無駄なのかもしれない。しかし、少しでも変えるためにやってみる。それが僕の目標だ。
書籍情報
【著者名】松岡亮二
【出版社】ちくま新書
【出版日】2019年7月10日
【キーワード】教育格差、学力、SES、学校教育、社会調査
【頁数】360頁
【目次】
第一章 終わらない教育格差
第二章 幼児教育―目に見えにくい格差の始まり
第三章 小学校―不十分な格差縮小機能
第四章 中学校―「選抜」前夜の教育格差
第五章 高校―間接的に「生まれ」で隔離する制度
第六章 凡庸な教育格差社会―国際比較で浮かび上がる日本の特徴
第7章 わたしたちはどのような社会を生きたいのか